SBMが持つ本質的な問題点と、SBMを超えるエントリ評価システムを作るためのヒント

はてなブックマークの作りなおしが始まっています。

ご存じの方も多いとは思いますが、新はてなブックマークの開発を進めています。はてなブックマークをスクラッチから開発し直し、ユーザーインターフェイスや各種機能の見直しと更なる楽しさを追加してユーザーのみなさんにお届けするための企画/開発作業です。

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ソーシャルブックマーク(SBM)はエントリを評価するシステムとしてはかなり優秀な部類に入ると思います。1人1票で、たくさんの人がブックマークしてくれたページが高い評価を得るという仕組みはシンプルで判り易い。しかしながら、SBMという枠組みからは解決できないであろう問題点も僕の目からは見えてきています。

本エントリでは、SBMが持つ本質的な二つの問題点に焦点を当て、SBMよりも良いエントリを評価するシステムを作るためのヒントを紹介したいと思います。


SBMが持つ本質的な問題点1―ポジティブ評価しかないシステムの硬直化を防ぐ仕組みにより作られる隠れたネガティブ評価方法

ソーシャルブックマークは「ブックマークすれば評価される」という評価軸しかありません。言いかえれば、ポジティブな評価方法しかないということになります。しかし、単にポジティブな評価方法しかないシステムは必ず硬直化します。

自分のサイトを持っている人は、アクセス解析ツールやアクセスランキングをに貼ってみた経験があると思います。その方がたは歴代のアクセスランキングの順位がほとんど変わっていないことに気づかれると思います。アクセスランキングは1PV=1票というポジティブ評価しかないシステムとして見ることができます。または、はてブ総ブックマーク数のランキングを何度か見たことがある人はその順位を見ていただければ同じ事が言えます。このように、ポジティブな評価システムは、結果がある時期からあまり変わらないようになります。

これは決して悪いことではなくて、前者のアクセスランキングの例では、「この記事がこのサイトの中で特に面白いエントリですよ」ということが一目でわかりますし、総ブックマーク数のランキングは、「このサイトがインターネット上で見てみると良いエントリです」ということを示します。だから、この評価方法では、初めて訪れた人がまず見るべきエントリというものがはっきり判ります。

しかしながら、システムが硬直化するということは、一度見ればもう見る必要性がなくなるということでもあります。だとすると常連さんはどうすればそれ以外の面白いエントリを見つければいいのでしょうか。

そのために、「時間」という要素を使います。すなわち、「古いブックマークは評価として換算しない」という評価を下げる要素を持ってくるんです。例えば、アクセスランキングは「今日のアクセスランキングしか集計しない」など、過去のアクセスを低く評価することで硬直化を防ぐことができます。

ただ、この「時間」によるネガティブな評価方法ははたして良いのでしょうか。エントリには息の長いものや短いものが存在します。息の長いエントリの例としては、論文の書き方のように良い知識を掲載しているエントリや、ニコニコ動画のように何度も訪れたくなるエントリ、あるいはあなたの中で 「うわっ!こんなサービスウェブで無料公開してるの?」 「今まで、お金払ってたけど、実は無料で提供しているサイトあったんだ・・」 というように下記のよ.. みたいなまとめのエントリがあります。一方、息の短いエントリの例としては、好きな下着をモデルのお姉さんが実際に着用して見せてくれる「KnickerPicker」のような紹介系のエントリや、36歳生活保護男性「月10万…うどんでしのぐ」のような時事系のエントリ、または 学生の時先生から言われた一番ひどい言葉晒そうぜwwww:VIPPERな俺のような一発系なエントリがあります。このような2種類のエントリを同じように「古いから取り上げない」とすることははたして良いのでしょうか。

これが、ソーシャルブックマークにおける本質的な問題であると私は考えています。たとえば、「はてなブックマークは安定したアクセスをもたらさない」というものがあります。私もホッテントリ入りはしたことありますが、初日500を超えるPVがあったと思ったら、次の日には半分以下、3日も経てばいつも通りです。息の長いエントリであれば長く表示されることで、アクセスを継続的に流しこむ仕組みはソーシャルブックマークでは実現できないでしょう。なぜなら、息が長かろうが、短かろうが、システムはそれを判断することはできず、どちらも公平に「古い評価は評価として換算しない」として表示をやめてしまうからです。



SBMが持つ本質的な問題点2―一人1票制

ソーシャルブックマーク評価方法は「一人一票制」です。「何人がブックマークしているんだから、これはきっといいページだろう」という評価方法だといえます。確かに、非常に判り易い評価です。しかし、本当にこの方法がいいんでしょうか。

しかし、この「一人一票制」、実は抜けている言葉があります。正しく書くと「一人一ページ一票制」なんです。

だから、一人何票でもいいんです。その票が一ページに対して一票までしか投票できないだけなんです。

何を当り前な、と思うかもしれませんが、これは以下に述べる三つの現象を呼び起こします。

  1. インターネットの利用時間が長い人ほど票数が多い
  2. ユーザー同士の独立性を失わせる
  3. 一度取り上げられた記事は再び取り上げられることはない

インターネットの利用時間が長い人ほど、多くのページを閲覧することができます。無論、ニコニコ動画等、動画をよく見るユーザーは多くのページを閲覧するとは限りませんが、それでも、平均的に見れば、そうなるでしょう。

多くのページを閲覧できるということは、それは多くのページをブックマークできることを意味します。ですから、SBMに投票できる票数は自然と多くなる。

そうすると、今度はページをブックマークすることを目的にし始めます。長文だからすごそうとか、この人が紹介しているんだから、きっと面白いページだろうと考えて、たとえ一文字も読んでなくてもブックマークしてしまったりする人が現れるようになります。「あとで読む」とかその典型ですよね。

こうして「SBMにおける一人一票制」は個々のユーザーの独立性をも奪い去ってしまうのです。

そして、投票してしまったページは、二度と投票することはできません。そのため、「古いブックマークは評価として換算しない」という隠れたネガティブ評価システムを持っているSBMでは、ポジティブな評価をする方法がありません。こうして、一度取り上げられた記事は再び取り上げられることがなくなってしまうのです。

このように、「SBMにおける一人一票制」はSBMをエントリ評価システムとして見る場合、様々な問題の原因になっていると私は考えています。


SBMを超えるエントリ評価システムを作るためのヒント

実はこんなシステムを作れば、SBMを上回るエントリ評価システムを作れるというネタはあるんですが、とりあえずそれは置いておいて、SBMより良いエントリ評価システムを作るためのヒントをここでいくつか紹介したいと思います。

  1. 明示的なネガティブな評価方法の導入
  2. スコアの導入と一人一エントリ一票制の撤廃
  3. 票数の制限
  4. スコアの導入と、票数が多くなってくると1ページあたりのスコアが低くなる仕組み
  5. スコアの導入と、一人あたりが持つスコアを変動させる仕組み
  6. タグによって評価を下げる仕組み
  7. タグによって評価を変動させる仕組み
明示的なネガティブな評価方法の導入

「ブックマークすると評価が上がる」というポジティブ評価システムでは、システムの硬直化を防ぐために、「時間が経過すると評価を下げる」という隠れたネガティブ評価システムが導入しなければならないことが、SBMがエントリ評価システムとして良くないんだということを述べました。それならば、明示的なネガティブな評価方法を導入するということを考えるべきです。当然のことです。

スコアの導入と一人一エントリ一票制の撤廃

一人一エントリ一票制が様々な問題を引き起こすならば、一人一エントリ一票制を撤廃することを考えなければならないでしょう。スコアという別の評価方法を用意して、手動ででも、自動ででも構いませんが、そのスコアをエントリごとに振り分けるような仕組みを用意するのを考えるのは面白い。

票数の上限の設定

時間が掛けられる人ほど票数を多く持てるのは良くないと考えるならば、票数に上限を設定してみてはどうでしょうか。

これは実例があります。ニコニコ動画ではマイリスト登録数の上限を設けることにより、一人あたりが投票できる票数に上限を与えています。
だから、ニコニコ動画のマイリスト登録数ランキングはかなり優秀な部類に入るのではないかなと思っています。

マイリスト登録数ランキング(歴代)

ちなみに票数の上限を設定するということは、明示的なネガティブな評価方法でもあります。

スコアの導入と、エントリごとのスコアを変動させる仕組み

これは僕も挑戦していることですが、従来のSBMの評価方法から離れて、異なるスコア計算方法を導入するという考えかたです。

僕が提供している「これから流行るエントリ」も、この仕組みを導入しているサービスの一つです。「時間が経過すると評価を下げる」というネガティブ評価がまだ含まれていますが、はてな人気エントリとは異なるスコアの計算方法により、はてな人気エントリとは異なるエントリを紹介しています。

これから流行るエントリ

これは、一人一エントリ一票制の撤廃でもあります。

タグによって評価を下げる仕組み

今まで、タグはランキングの対象とするエントリに制限を加えるという形でしか活躍してきませんでしたが、スコアリングにタグ情報を生かすということも考えるべきかもしれません。

例えば、タグにスコアリングを下げるようなタイプのタグを用意して、ネガティブな評価方法として用いたりすることが考えられます。「これはひどい」とか。

タグによって評価を変動させる仕組み

タグ情報を生かす方法には他にもいろいろ考えられて、タグが持つ情報量を上手く利用するということも考えれます。

あまりにもよく使われる「あとで読む」や「これはすごい」タグのスコアは低く、別のタグのスコアを高くして、そのスコアの合計をページのスコアにするとか。

最後に

いろいろ言ってきましたが、僕はSBMは好きです。なんだかんだ言って良い評価システムだと思っています。なんだかんだで、人手による評価方法はすごいと思っています。ただ、SBMより良い評価システムができるならば僕はそれを使ってみたい。そんなサービスが出ることを楽しみにしてます。

以上長くなりましたが、SBMに対する提言を述べさせていただきました。